国会議員基礎テスト
第十五回

 ところが、勤め始めて数ヶ月経ったころ、いきなり転機が訪れた。立花に呼ばれ、永田町の議員会館に異動してくれと頼まれたのだ。

「橋本さんの補佐ですか」

「違うよ」 

 立花が眉をひそめた。

「ボン、いや先生の補佐に決まってるだろう。きみは直接、黒部先生から指示を受ける。橋本くんとは関係ない」 

 何だか不穏なものを感じたが、口には出さなかった。そういえば、橋本は近ごろよく、選挙区をうろついているという噂を聞く。後援会回りをしているのだ。 

 おまけに、地元にいるのに、事務所に顔も出さない。用が済んだら、とっとと東京に帰っているらしい。新幹線を利用すれば、一時間もかからないところだからそれも可能だ。 

 橋本は地元でいったい何をしているのか。優太郎の特命でも受けているのだろうか。 

 早くも翌週の月曜日から、真菜は永田町の議員会館勤務になった。東京での住まいは、事務所が代々木にワンルームマンションを借りてくれた。 

 初めて赴く国会議員会館は、まるで空港のように、ものものしく警備されていた。入念な持ち物検査があり、大柄な衛視が鋭い目つきで、来訪者を値踏みしている。 

 辺りを田んぼに囲まれた、中古マンションの一階にある地元の議員事務所とは別世界だ。改めて、国会議員というのは偉い人たちなんだと、思い知らされた。 

 議員専用のエレベーターに乗り、三階まで上ると、優太郎の執務室があった。

「やあ、いらっしゃい。待ってましたよ、真菜ちゃん」 

 相変わらず能天気な調子で、優太郎に出迎えられた時、何だかホッとした。

「立花さんから聞いたよ。こっち勤務になったんだって? ぼくは大歓迎だよ」 

 どうやら永田町勤務は、優太郎ではなく立花が決めたことらしい。

「この机を使ってよ」 

 事務所入り口には、二つの机がくっついて置かれていた。書類の山が積み上がっているのが、おそらく橋本のデスクだ。

「橋本さんは、どちらですか?」

「今、出かけてるみたいなんだ。あの人も忙しいからねえ」 

 優太郎は、橋本がどこにいるか把握していなかった。一人しかいない秘書が忙しいのはわかるが、居場所も知らせないというのは問題ではないのか。

「まあ、有権者のところを回ってると思うよ。後援会の幹事とか。ぼくなんかより、ずっと昔からの付き合いだからね」

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