国会議員基礎テスト
第十三回

 問五 国会議員秘書の役割について述べよ 

 国会には「金帰火来」という言葉がある。 

 金曜日。羽田空港の地方行きの遅い便には、議員バッジをつけた人間を何人も見かける。同じ時刻、東京駅の新幹線ホームも、「のぞみ」を待つ国会議員たちで溢れている。 

 彼らは翌週の火曜日早朝、東京へ戻ってくる。これが地方出身国会議員の金帰火来と呼ばれているものだ。 

 会期中の国会議員の仕事は、文字通り国会に参加することだが、これだけでいいというものではない。 

 衆議院の任期は四年。参議院は六年で、三年ごとに半数改選が行われる。特に衆議院の場合は、任期まで安泰ということはなく、実質内閣総理大臣の裁量で解散総選挙が行われることもある。 

 せっかく総選挙で当選したのもつかの間、一年も経たないうちに解散となり、次の総選挙で落選してしまうことだってままあるのだ。 

 サルは木から落ちてもサルだが、議員は落ちると失業者になる。 

 このため、議員は頻繁に選挙区を回り、アピールをする必要がある。むしろ、国会に出席するよりも重要なのだ。だから地方出身の議員は、週末になるとこぞって選挙区へ戻っていく。

 

* 

 

 優太郎は、永田町にいるより、地元にいるほうが好きだということに真菜は気づいた。毎週末地元で何をやっているのかといえば、イベントや飲み会、冠婚葬祭への出席だ。 

 町内会の盆踊り大会、草野球、サッカーの試合、収穫祭、趣味の集まり、祝賀会。これらのイベントに優太郎は主賓として招かれた。優太郎が現れるだけで、会場は黄色い声援に包まれる。 

 スマホが一斉にこちらを向く中で、優太郎は演説を始める。さして内容があるわけではない。日本の行く末を憂え、政治的課題に真摯に取り組む姿勢を述べるという、定番のものだ。 

 なのに、聴衆は水を打ったように静まりかえり、発せられる一言一句に耳を傾ける。演説が終われば、割れんばかりの拍手と、握手攻めが待っている。 

 内容はともかく、パフォーマンスには優れている。よく通る、低めの声。胸を張り、腕を振って聴衆の心を惹きつける演技力。憂い、怒り、喜び、悲しみをわかりやすく伝える表現力。 

 演説ばかりではなく、スポーツにも長けていた。バッターボックスに立てば、ヒットを連発し、サッカーでは見事なシュートで観客を沸かす。 

 収穫祭では、誰よりも大きなサツマイモを掘り当てて喝采を浴び、カラオケ大会では、流行のバラードを熱唱し、乙女心をとろかせた。 

 生まれながらのスターなのだと真菜は思った。だから人の集まりがあれば、必ず輪の中心に優太郎がいる。

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