取材した事実を一度捨て去る
勇気も大切───相場

僕は元記者ですからとめどなく取材はできるんだけど、集めた事実をどこかで捨て去る勇気も大事です。取材した内容と違うことを書いても、「フィクションですから」と胸を張れる気概をもってほしい。

私は警察とは直接関係のない本のなかの、警察についての記述からネタを拾うことが多いですね。とはいえ『教場』を書いた時は、現役の警察官に取材できたことが大きかった。

親戚や友人周りを探せば一人や二人、警察関係者は見つかると思うんです。ただ、強い信頼関係がなければ、重要な情報を話してはもらえないでしょう。それと、新聞の社会面は大きな取材源になりますね。実は、地方紙のほうがネタの宝庫だったりします。

取材のやり方はプロでも十人十色です。正解はないですね。

田川や風間に匹敵する
魅力的キャラクターを───幾野

──警察小説の魅力ってどんなところにあると思いますか?

警察ってよく正義の味方だと言われますけど、その正義はあくまで相対的なものなんです。警察組織にとっての正義が、社会にとって悪になることもあるかもしれない。その葛藤を描けるところが最大の魅力じゃないですか。それは現代の警察だろうと、江戸時代の奉行所であろうと、正義という役割を担っている以上、常につきまとうテーマだと思います。

捜査小説では、犯罪者を憎んだり、被害者に同情したりという心理を描けます。その逆を描くこともできるわけです。殺人事件を真っ正面から描けるのは、警察小説の大きなアドバンテージだと思います。

実際お会いしてみると分かりますが、警察官だって私たちと変わらない人間なんですよね。彼らは常識人であることを求められ、一挙手一投足を市民の目に晒されています。そういう外からの目と内面のギャップを描けるのも、他の職業にはない特徴ですよね。

それから警察自体が組織として面白い。ピラミッド型の組織図を見ているだけで、人間臭いドラマがいくらでも浮かんできますよね。捜査一課や公安警察だけが警察じゃない。一般に地味だと思われている部署にだってドラマがあるはずなんです。まだまだ目の付け所は残っています。

──どんな作品が集まるか楽しみです。では最後に、応募を考えている読者に向けてメッセージをお願いします。

物語でもキャラクターでも、とにかく僕らをびっくりさせてほしいよね。警察小説のフォーマットに囚われる必要は一切ありません。自分がこうだと信じる道を突き進んで、世間をあっと言わせてほしい。それと応募時には二作目の準備をしているくらいでないと、プロとしてやっていけません。

これだけ警察小説が書かれている中で、先人の真似をしてもしょうがないんです。ほんの些細なポイントでも構わないので、ここは自分のオリジナルだという部分を探して、大切に育ててください。

『震える牛』にしても『教場』にしても、主人公の警察官が魅力でしたよね。応募作の中から、『震える牛』の田川刑事や『教場』の風間教官に匹敵するようなキャラクターが現れるといいですね。これまでの警察小説の流れを大きく変えてくれるような作品を、心からお待ちしています!

相場英雄あいば・ひでお

1967年新潟県生まれ。2005年『デフォルト(債務不履行)』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。12年に刊行した『震える牛』が28万部を超えるヒットとなり、連続ドラマ化された。近著に『不発弾』『トップリーグ』などがある。

『震える牛』(小学館文庫)

警視庁捜査一課継続捜査班の窓際刑事・田川信一は、「メモ魔」の異名を持つ。未解決の居酒屋強盗殺人の再捜査にあたるが、事件は「食の安全」にまつわる社会問題へとつながってゆく。

長岡弘樹ながおか・ひろき

1969年山形県生まれ。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。13年『教場』で週刊文春ミステリーベスト10国内部門第1位獲得。近著に『教場0 刑事指導官・風間公親』など。

『教場』(小学館文庫)

希望に燃え、警察学校に入校した生徒たちを待ち受けていたのは、冷厳な白髪隻眼の鬼教官・風間公親。わずかなミスも許されない半年にわたる過酷な日々の中、生徒たちは篩にかけられる。

幾野克哉いくの・かつや

1974年生まれ。2007年小学館入社。現在、小説誌「STORY BOX」編集人。相場英雄氏の『震える牛』、長岡弘樹氏の『教場』をはじめ、警察小説、ミステリーを数多く担当する。