警察小説に特化した新しい文学賞が創設された。
第1回の原稿募集開始を記念して、
選考委員を務める相場英雄氏と
長岡弘樹氏のお二人、
そして受賞作を担当することが決定している
幾野克哉(小誌編集人)による座談会を開催!
創作の秘訣から警察小説の魅力まで、
濃密トークをお届けします。

──まず、本賞創設の経緯について教えてください。

ミステリーの新人賞は多々ありますが、警察小説に特化した賞は存在しないことに気づいたんです。警察小説には大きく分けて〈警察捜査小説〉と〈警察内警察小説〉の二タイプがありますが、この両方をカバーできる賞を作りたいと考えました。幸い小社には前者型の『震える牛』と後者型の『教場』というベストセラーがあります。その著者である相場さんと長岡さんにご相談して、選考委員を引き受けていただきました。

受賞作の担当編集があらかじめ決まっている、というのがこの賞の大きな売りですよ。幾野さんは私がデビューして、初めてついてもらった担当さんです。厳しいですが信頼できる仕事相手です。警察小説を数多く世に送り出してきた幾野さんが「責任を持って本にする」というんですから、話題になると思いますよ。

受賞者にとっては最高にラッキーで、かつ最高に不幸だよね(笑)。というのは冗談ですけど、幾野さんと組めば、原稿の書き直しで心を折られるはずです。その辛さはよく分かるから、そこは長岡さんと僕で誠心誠意サポートしていきたいなと。

作品の完成度は編集者で変わる
────長岡

──書き手にとってやはり編集者の存在は大きなものでしょうか?

大きいですね。担当さんが作品をどう読むかによって、完成度が変わってきます。岡目八目と言いますけど、作家自身も気がつかない作品の欠点や長所に、優れた担当さんはちゃんと気づいてくれるんですよ。

幾野さんと初めて仕事をして、この人はこんなに細かいところまでチェックするのかと驚いた。声を大にして言いたいですが、『震える牛』は九回も書き直しましたからね。この野郎、と思っても書き直すたびに良くなっているんですよ。よくもまあ、書き手の癖や資質を見抜くもんだなと感心します。

……なんだか冷や汗が出てきました(笑)。念のため言っておきますけれど、私が担当すれば必ずヒットすると言っているわけではありません。ただ小説の新人賞って受賞後のプロセスが案外告知されていない気がするんです。担当には誰がつくのか、どういう売り方をされるのか、改稿は必要なのか、タイトルは応募時のものから変更するのか、そのあたりがブラックボックスになっている。警察小説大賞の場合、大賞受賞作品であっても出版前の改稿は必須であると思ってください。

──一口に警察小説といっても幅広いですが、どんな作品を期待しますか。

一九九八年に刊行された横山秀夫さんの『陰の季節』は、警察小説のジャンルに革命を起こしました。あれから約二十年が経ちます。二十一世紀の警察小説の地図を塗り替えるような、革命的な作品が出て来てくれるのが一番理想ですね。

警察小説の枠組みに自分の得意な分野を
────長岡

どんな小説を書いても「これはミステリーの方程式じゃない」といった批判をする人は必ずいます。作家はそんな声を気にしてちゃ駄目。たくさんの資料に当たって、それを引き写せばリアルな警察小説にはなるかもしれないけど、面白くなるという保証はない。小説はテストじゃないんだということを、頭のどこかで意識してもらいたいです。

苦手なら無理してミステリーに仕立てることもないんですよ。横山さんの『陰の季節』だって、いわば警察小説の形を借りた組織小説でもあるのですから。警察小説という枠組みを使って、恋愛でもホラーでもSFでも、自分の得意な要素を取り入れてみてはいかがでしょうか。それでも立派に警察小説として成立すると思います。

新しい部署を作ったって構わないんです。〈潜行隠密部隊〉とかね(笑)。さもそれが実在するように読ませてくれさえすれば、まったく問題なし。警部と警部補の違いに頭を悩ませるよりは、もっと大きなところで遊んでほしい。

とはいえ、警察組織の成り立ちについて、初歩的なミスを犯してしまうと減点にはなります。分かっていて嘘をつくならいいんですけど。警察組織の部分で嘘をつくなら、それ以外の部分でも均等に嘘をついてほしいような気がします。

バランスが大事ということですね。資料にまったくあたっていない作品はすぐ分かるので、「調べる」という行為は書く前も書いた後も大切だと思います。

──デビュー前のお二人はどんな警察小説を読まれてきたのでしょうか。

逢坂剛さんや森村誠一さんの作品などを中心に色々読みました。もともと逢坂さんが書かれた冒険小説のファンだったんですが、『百舌の叫ぶ夜』を読んで警察小説もこんなに面白いのかと驚いた。しかし人生最大の衝撃といえばやはり横山秀夫さんの『陰の季節』ですね。これまで何度読み返したか分かりません。私にとっては警察小説の理想形です。いまだに新作を構想する時は、再読するくらいです。

長岡さんが横山秀夫ファンというのはよく分かるな。キャラクターの切り取り方の巧さとか、短編の完成度へのこだわりとか、共通点が多いですよね。

インタビューで仰っていたんですが、横山さんはキャラクターに強い負荷をかけることで、小説を動かしていくんだそうです。そういう創作スタンスにも影響を受けています。

僕の場合、横山さんも面白く読みましたし、髙村薫さんも仰ぎ見るような気持ちで愛読していますが、オールタイムベストといえば宮部みゆきさんの『火車』なんです。カード破産を扱ったテーマもさることながら、先へ先へとページをめくらせるストーリー展開には唸らされます。主人公が休職中の刑事という設定も絶妙です。『震える牛』の主人公・田川が第一線を退いた刑事なのも、『火車』の影響なんです。刑事に旅をさせるというのも『火車』から学びました。

せっかくなので取材方法についてもお話しいただきましょう。相場さんは取材で得た知識を、一旦忘れて原稿に向かうそうですね。