連載回数
第144回
著者名
内藤 了さん
3行アオリ
人間の怒りや悲しみ、
そして命がけで闘う人たちなど、
本当のことを書いていくのが、
私の作家としての価値なのだろうと
思っています。
著者近影(写真)
yumetantei
イントロ

テレビドラマ化された『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』シリーズなどで知られる内藤了さん。ホラーとミステリを融合させた作風で、読書好きからの人気が急上昇しています。最新作『夢探偵フロイト─マッド・モラン連続死事件─』は、死の連鎖を生む不可解な悪夢の謎を大学教授と教え子が解明する、新たなタイプの探偵小説です。ときわ書房本店宇田川拓也さんと、明正堂アトレ上野店増山明子さんが、内藤さんに本作の魅力や、創作のこだわりなどを聞きました。

インタビュー本文

入り口の広がった小説

増山……ご新作『夢探偵フロイト─マッド・モラン連続死事件─』を読みました。本当に面白かったです。

内藤……ありがとうございます。

増山……内藤さんはデビュー作からずっと、個人的に推しています。どの作品も文学賞を取れるに違いないと確信するほどのレベルですが、今作はまさに100点満点。少しクセのある、格好良すぎないキャラクターの描写力が、さらにブラッシュアップされていました。本当にすごい……! の一言に尽きます。内藤さんの小説は毎回、テーマの好き嫌いを超えてくる感じ。私との相性が良すぎます。

内藤……嬉しいご感想です。励まされます。

宇田川……僕も、とても面白かったです。内藤さんの作品は、デビュー作から注目しています。やはり一般的には『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』シリーズが有名ですが、猟奇犯罪というテーマで腰が引けてしまう読者の方も一部にはいらっしゃるでしょう。『よろず建物因縁帳』シリーズも好きなのですが、土俗的なホラーというジャンルで、手に取るのを避けられている読者もいると思います。

内藤……そうかもしれませんね。

宇田川……しかし今作は「夢」という、普遍的なテーマが扱われています。これまでのシリーズより、ぐっと入り口が広がりました。キャラクターの魅力や、絶妙なホラーテイストなど、物語の面白さは内藤さんの場合、保証されているので、さらに多くの読者を獲得されるのではないかと思います。

増山……宇田川さんも絶賛ですね。

宇田川……デビュー作を超えているだけでなく、内藤さんの小説を世に知らしめるのに、お薦めしやすい作品が、ついに出たぞ! と、ガッツポーズしたいぐらい喜んでいます。

内藤……あはは。本当に嬉しいです。そこまで言っていただけると、必死に頑張って書いた甲斐があります。やっぱり必死で書かないと、私なんか消えると思ってるから。いつも全力投球で書いてます。

増山……いえいえ。消えたりしないですよ。

構想の源流は中学時代の夏休みの研究

宇田川……今回のような「夢」を扱った小説のご構想は、以前からお持ちだったのですか?

内藤……いえ、実は全然ありませんでした。新作を書くに当たって、小学館の担当さんと、どんな話にしようかと話し合っていました。そのとき夢の研究をしたことを、ふと思い出したんです。

増山……夢の研究ですか?

内藤……それは中学校の夏休みの宿題でした。「夢占いは当たるのか?」という疑問をもとに取り組んだ研究です。買ってきた夢占いの本を参考にしながら、夢の当たり外れをデータにまとめました。その研究を学校で掲示したら、見に来た生徒で、黒山の人だかりができるほどの大反響だったんです。みんな夢って、興味があるんだなと知りました。そのエピソードを担当さんが気に入ってくれたんですね。「夢で事件を解決する話はどうだろう?」とアドバイスされて、今作の構想へ繋がっていきました。

増山……風路亥斗=フロイト先生の原型が、すでに中学生の内藤さん自身にあったのですね。

内藤……そんな大したものじゃないです。けれど夢の話は多くの人が面白がってくれるという気づきは、当時の成果から得られました。宇田川さんが言われるように、入り口の広さで、このテーマを選んだ部分もあります。

他作と時系列が同時進行している

宇田川……未読の方のために、ぼやかしますが『夢探偵フロイト─マッド・モラン連続死事件─』には、内藤さんの他の人気シリーズのキャラクターが、チラッと登場します。

内藤……ああ、出てきますね。

宇田川……他作とリンクした部分を見つけると、以前からのファンとしては、読む楽しさが増します。また、リンクしている本と並べると一緒に売れるので、書店側としては、すごくありがたいのです。

増山……わかります! そうですよね。

内藤……なるほど。今後のために覚えておきます。

宇田川……他作のキャラ登場は、意識的にされたのですか?

内藤……意識的というより、自然にそうなりました。 ネットに出ている感想で、藤堂比奈子シリーズの読者の方が、「八王子西署には彼らがいるから大丈夫」というひと言を書いてくださっているのを見ました。小説の読者にとってキャラクターは、現実の時系列のなかで存在しているのです。その気持ちを、作家が裏切ってはいけないと考えています。 なので『夢探偵フロイト』のなかで起きた出来事は、他のシリーズの時系列とも沿っています。双方の近づく場面が出てきたらキャラクターが登場するのも、当たり前なのかなと。日付や移動時間、季節など矛盾がないように、計算して書いています。今作に限らずシリーズものを書いているときは、小説間で時系列が同時進行している構造を、意識しています。

増山……読者へのサービス精神ですね。すごい。

宇田川……藤堂比奈子シリーズは『ONE』で、内藤ワールドの初期がひと区切りになったと解釈しています。『ゴールデン・ブラッド』など別の作品も経て、『夢探偵フロイト』はまた別の広がりをもった、内藤ワールドの新たな始まりを予感しています。

内藤……ありがとうございます。実は藤堂比奈子シリーズでデビューしたときは、最初の一本で、もう二度と警察小説は書かないと思っていました。『ゴールデン・ブラッド』も、そうです。けれど読者の方から続きを読みたいという声をたくさんもらえるようになって、何とか自分なりに調べながら書き続けてきました。そうしているうちに各々の作品が、自分のなかでリアルタイムに立ち上がり、リンクするような場面が、自ずと出てくるようになってきました。

動きだしたキャラクターに教えてもらう

きらら……今作の主な舞台「夢科学研究所」のフロイト先生、あかね、ヲタ森の3人が非常に魅力的です。彼らの人物像は早い段階で決まったのですか?

内藤……あまり細かく決めこまずに書き出しています。私はキャラクターは、読者と小説の世界との橋渡し的な存在として置いておきたいのです。素性が曖昧だったり、行動がぶれていたりと、初期の段階ではあえてつくりこんでいません。その方が読んでいる側は、彼らの背中に乗りやすいと思っています。 注意しているのは、いろんな欠点を持つキャラクターであること。自分自身がそうなので、なるべく完璧じゃない人を描くようにしています。

宇田川……今作のキャラクターたちの言動を見ると、すでに次回作への伏線なのでは? と思わせる場面が、いくつか見られます。

増山……フロイト先生が悪夢を憎んでいる理由など、触れられていませんよね。きっと深い理由が次回作以降で語られるはずと想像しています。

内藤……そうですね。でも伏線のつもりはないです。伏線らしい設定やエピソードは、後から勝手に繋がっていくものだと思っています。

増山……意図されていないのですか?

内藤……はい、まったく。そもそも『夢探偵フロイト』は一応シリーズ化する予定ですが、どう着地させようか模索している状態です。

宇田川……第3~4作ぐらいまでの青写真は、お持ちなのかと思っていました。

内藤……よく言われますが、全然考えていません。動きだしたキャラクターたちに「そういう話だったのか」と、書きながら教えてもらう感じです。本当に計算のない作家なんです。 例えば今作での事件の発端となる"マッド・モラン"の悪夢の描写も、作中でその夢を見たキャラクターたちの目を通して、書き取っている感覚です。「こういう造形にしよう」という意図は、私にはありませんでした。今作はキャラクターが動きだしたばかりで、まだ彼らに内緒にされている部分が、かなりあります。心が通じてくるようになると、思いがけないような事実を私に明かしてくれるでしょう。そのとき、伏線は回収されていくと考えています。 他のシリーズも同じで、読者と一緒に先の展開を探索しています。いろんな謎がこれからどうなっていくのか、私も楽しみにしています。

本当のことを書くのが自分の価値

きらら……今作では、悪夢によって連鎖していく死の理由を、あかねたちがフィールドワークで解いていくうち、ひどく悲しい事実が明らかになります。

内藤……私も、そうだったのか……という気持ちで書いていきました。

増山……すごく悲しい真相でした。悲しくてたまらない。だけど強い怒りも感じました。内藤さんの小説には、たびたび真っ当な怒りが、こめられています。

宇田川……真っ当な怒りが根っこにあるからこそ、マッド・モランが単なる恐ろしい化け物ではなく、ある事情で犠牲になった人たちの切実な思いの象徴になっていたのですね。胸に迫りました。実はとても重いテーマの小説ですが、その重みに押しつぶされず、読み手に前向きなものを提示して終わります。内藤さんの作品の大きな魅力です。 気の滅入る、タブーの領域に触れている物語でも、誠実に解き明かされることで、希望が見いだせる。それはエンターテイメントの優れた効能だと思います。

増山……悲しい真相に対しては不謹慎かもしれませんが、やっぱり「面白かった」という感想しかありません。

内藤……本当に嬉しいご感想です。私はデビューしたとき、担当さんから「世のなかには警察官など、遺体と向き合うような厳しい現場で働いている人たちがいます。そういう人たちのことは誰も書きません。だから、内藤さんが本当のことを書いてください」と言われました。その言葉は、私の指針になっています。 人間の怒りや悲しみ、そして事件を解決するために命がけで闘っている人たちなど、本当のことを書いていくのが、私の作家としての価値なのだろうと思っています。例えば災害などのシーンを描く場合は、徹底的に取材して、校正段階でもいろんな人の知恵を借りながら、本当のことを真っ向から記録しています。 一方で、災害で犠牲になった方々もいるわけで、ご遺族が本を手に取る可能性も、あるでしょう。その人たちに追い打ちをかけるように、傷つける物語になってはいけない。だから必ず、救いを入れるようにしています。読者に恐怖や辛い気持ちだけを渡したくて書いているわけじゃない。本当のことのなかに、宇田川さんや増山さんが言われるような、前向きになれる何かを残しておきたいんです。 それは同情とは違います。自己満足になってもいけない。結局、何を書いたところで、悲しみを癒やしてあげることはできません。今作の発端となった悲しい出来事で亡くなった人たちもそう。だけど後に残された人たちは、どうしたって、辛くても、生きていかなくちゃいけません。過去は、変えられないんです。生き残っている人たちは、過去を乗り越えて、明日を生きていかなくちゃいけないんだというメッセージを、私なりの救いのある描写を通して、伝えていけたらと思っています。

宇田川……勇気づけられる言葉です。

増山……読者のことを、本当に考えてらっしゃるのですね。

内藤……私はホラー小説大賞の「読者賞」出身ですから。『夢探偵フロイト』でも、せっかく本を手に取ってもらった読者の方に、読み返してもらえばさらに面白みが増すような仕掛けを施しています。何かしらお土産を用意しているので、楽しんで読んでください。

(構成/浅野智哉)

 

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コメント
著者名(読みがな付き)
内藤 了(ないとう・りょう)
著者プロフィール

長野市出身。長野県立長野西高等学校卒。デザイン事務所経営。2014年『ON』で日本ホラー小説大賞読者賞を受賞しデビュー。同作は『猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』シリーズとして、現在も継続中。猟奇的な殺人事件に挑む女刑事の親しみやすいキャラクターがホラー小説ファン以外からも広く支持を集め、2016年にはテレビドラマ化された。他の著作に『よろず建物因縁帳』シリーズ、『ゴールデン・ブラッド』など。