連載回数
第143回
著者名
額賀 澪さん
3行アオリ
「額賀澪はこんな小説も書けるんだ」と
面白がってもらえたら、書いた甲斐はあったかなと思います。
著者近影(写真)
額賀澪さん
イントロ

2015年のデビュー以来、長編の秀作をハイペースで刊行されている額賀澪さん。最新作『ウズタマ』は、少年犯罪というシリアスな題材を扱った物語です。ミステリ要素を盛りこみつつ、ある特別な約束でつながった家族の姿を描いた、額賀さんの新境地として注目されています。大杉書店市川駅前本店鈴木康之さんくまざわ書店サンシャインシティアルパ店滝沢みゆきさんが、小説の感想を通して、少年犯罪の背景や家族の形など、さまざまな話を額賀さんから聞きました。

インタビュー本文

いままでやったことのない家族小説を書きたかった

 

きらら……『君はレフティ』の刊行から1年経たないうちに、書き下ろし長編『ウズタマ』の発表となります。精力的な、お仕事ぶりです。

額賀……いえいえ。かなり頑張って書いていたつもりですが、私としては、それほど新作は出せなかったなという印象があります。頑張った分は2018年に、続けて出せると思います。

滝沢……書店側も期待しています。

鈴木……『ウズタマ』のご構想は、以前からあったのですか?

額賀……大枠の設定は、考えていました。父子家庭に、他人がやってきて家族になっていく、ほのぼのした家族小説です。そのネタをしばらく封印したまま、デビューから7冊目の今回、そろそろ使ってみようかと出してきました。

 最初は、作中の1992年前後の過去パートをメインにした話を予定していました。妻がいなくなった夫と、3歳ぐらいの子どもの父子家庭に、生活をサポートする人がやってくる……というベースの筋書きだったのですが、7作目で、いままでやったことのない話をやってみたくなりました。いろいろ考えながら要素を付け加えていった結果、現在の形にまとまりました。

鈴木……私は額賀さんの作品は、ほとんど読ませていただいています。これまでのなかで『ウズタマ』は最高傑作だと思いました。

額賀……本当ですか。嬉しい。

鈴木……今作は殺人事件を取り上げた衝撃的な内容で、ミステリー要素や謎解きが詰まっています。最後まで一気に、ハラハラドキドキしながら読みました。そんななか主人公の周作の、2歳ぐらいのときの記憶がないくだりが気に留まりました。娘に「2歳の記憶はある?」と聞くと、彼女にはないらしい。そういえば私も2歳の記憶はないな、と気づきました。

額賀……私も記憶が残っているのは、3歳ぐらいから。みんな3歳ぐらいが普通みたいですね。

鈴木……そういう人の記憶の仕組みも、不自然さがないように描かれていて感心しました。

滝沢……私も、面白く読ませていただきました。お聞きしたいことはいくつもあるのですが、何を聞いてもネタバレになりそうなので心配です。

額賀……他の媒体の取材のときも、同じことを言われました。後半の真相が明かされる部分は、本当に驚いてもらえたようです。

滝沢……あれは、予想できませんでした。まず物語は、周作のお母さんが、何者かに殺害? されたような場面で始まります。何が起きたのか明らかにされないまま、周作は25年後に、犯人とされた元少年・皆瀬の存在を知ります。そこまでの展開が、ドキドキしました。また刑を終えて出所してからの皆瀬の寂しい人生は、切なかったです。日本社会は冷たいから元犯罪者への視線は厳しい。後半、彼が孤独な人生を選んだ理由を語るところは、胸が詰まりました。

額賀……罪を償ったとしても、実社会で生きていくのに、トラブルは絶対あるんですよね。

滝沢……すべての真相が明らかになった後、周作のまわりの人たち、特に恋人の娘の真結ちゃんは、いずれ養女になるかもしれないんですよね。大きくなって、どこまで複雑な事情を理解してくれるのかなと、気になってしまいました。

額賀……たしかに、そうですね。「皆瀬さんって、いったい何者?」と、疑問に思うはず。

滝沢……私自身、娘がいます。もし娘の結婚する人が犯罪に関係した人だったら、私はどうするだろう……? と。面白いだけでなく、シビアな問題提起をはらんだ小説だと思いました。

額賀……ありがとうございます。そのあたりは、以前に調べた事件などを参考にしつつ、都合のいい展開にならないよう、気をつけました。

 

過去にあった少年事件の取材を反映した犯人像

 

きらら……『ウズタマ』は父子家庭や少年犯罪など、社会的な問題が取り上げられています。執筆の前に、取材はされたのですか?

額賀……まずひとり親の家庭というのは、取材しなくても世の中にありふれています。私の世代では離婚している家庭は珍しくありません。小・中学校時代、父親か母親がいない友だちは、多かったです。私自身も両親が離婚を経験しているという環境で育っています。また年齢的に、離婚したなどの話を、身のまわりで聞くようになりました。周作の家庭は特殊というわけではなく、身近な普通の家庭として、描くことができました。

 少年犯罪については、大学時代にジャーナリズムの授業で、実際の事件を調べていました。2003年の「長崎男児誘拐殺人事件」。そして2004年の「佐世保小6女児同級生殺害事件」です。どちらも犯人は12~13歳の子どもでした。まだ幼い人間が、人を殺すとはどういうことなのか、深く考えました。

 そこから冤罪事件も調べるようになりました。なかでも「御殿場事件」は印象的でした。2001年、女子高生が元同級生の少年10人に強姦されたと訴えました。けれど少年たちには事件当日アリバイがあって、女子高生の証言が大きく変わったり、疑わしい点がいくつも出てきました。冤罪の可能性があったんですけど結局、少年たちは有罪になってしまいました。

 事件の詳細を取材していくほど、不可解な事件でした。真実は何だったんだろうと、もやもやした気持ちが拭えません。もしかしたら真実は当事者たちにさえ、わからないのかも。そのときに学んだ少年犯罪の複雑な実態が、『ウズタマ』に反映されたと思います。

鈴木……たしかに真犯人が誰なのかという意味では、読み方次第で、解釈が分かれます。

滝沢……皆瀬が過去にとった行動には、考えさせられますね。

額賀……表向きは皆瀬が犯人でも、本人が罪を受け入れているだけで、実質的にはどうだろう? という疑問は残ります。その疑問は、きっと解けない。冤罪の可能性がある事件の、難しいところです。

 

書ける年齢の幅が広がった

 

きらら……周作は、家族同然に暮らしていた皆瀬の存在を思い出し、非常に興味を持ちます。手がかりをたどって、会いに行こうとします。それは、なぜでしょうか?

額賀……周作のお父さんは、すごく頑張って、失った母親を思い出さないように、息子を大事にしてきたと思うんです。「これが家族だ」という理想を周作に持たせず、幸せで円満な父子家庭をつくりあげてきました。父親の努力は周作もありがたく思っているでしょう。でも心の底では、「なぜ母親を思い出さずに自分は育ってしまったのか?」という欠落を感じています。母親がいないことに、折り合いをつけているようで、折り合いがつけられていなかった。あるべき本当の家族を持たずに、大人になってしまった孤独を抱えています。だから結婚して、家族をつくることも躊躇ってしまうのです。

 周作は皆瀬に、自分とよく似た孤独を重ねたのだと思います。犯罪歴のせいで皆瀬も、家庭をつくれません。家族を持てない孤独な者同士、互いにどんどん肩入れしてしまう……そのように解釈して、私は書き進めていきました。

鈴木……周作は皆瀬と会うことができましたが、皆瀬は周作を拒絶します。その気持ちは、何となくわかる気がします。

滝沢……本心では会いたかったのかもしれないけれど、やっぱり大喜びはできない。

額賀……皆瀬にとっては、25年前のある約束の方が、重いのでしょう。周作とはもう家族のような関係にはなれない。なってはいけないと戒めながら、少しずつ親交を重ねたり、どこかでつながりを捨てきれません。そういった、踏ん切りのつけられない40代前半の男性の姿こそ、リアルだろうと想像しました。

 この2年ほどで、年齢についての私の解釈は、だいぶ変わりました。自分が25歳のときは40代前半の男性は、悩まないんだろうと思っていました。でも27歳になると、いや全然そんなことはないなと。「歳を取っても人は、あまり変わらない」ことがわかってきました。感覚的には38歳ぐらいまでは、私とそんなに歳が離れていないような気がします。皆瀬のようなおじさんも、きっと若い周作と同じように悩みを抱えこんで、上手に生きられず、年月だけ過ぎてしまったんだろうと思います。「私が悩むことは42歳でも悩むな」と理解できるようになって、書ける年齢の上の幅が、ぐっと広がりました。

鈴木……おっしゃる通り、私なんか来年還暦ですが、精神年齢は幼いままです。女房には、わが家の長男だと言われています。

滝沢……女子も、結婚したり子どもができても、頭のなかは大して変わりませんね。

額賀……これから何か違う話を書こうと思ったとき、歳を取った人物の年齢が、描く際のハードルだと感じないようになりました。その意味でも『ウズタマ』を、書いて良かったです。

 

家族はきれいなシステムで動いているわけではない

 

きらら……前作『君はレフティ』で本誌にご登場いただいたとき「ハッピーエンドより、トゥルーエンドの物語を書きたい」と言われていました。いまも同じお気持ちなのでしょうか?

額賀……基本的には、そうです。『ウズタマ』は、ハッピーエンドじゃなくても、登場人物みんなが幸せになれる道はあるんじゃないか? というのを提示したいと思いました。あのラストからの人生の方が、周作たちには、絶対に大変でしょう。でも家族って、大変なときの方が、当たり前だったりします。親子・兄弟という器のなかで、それらしく運用はされているけど、実際はそんなにきれいなシステムで動いているわけではありません。いろんなところで、エラーとバグが発生していて、だけど何か動いている。そんな家族の不思議なつながりを、『ウズタマ』では表現できました。「額賀澪はこんな小説も書けるんだ」と面白がってもらえたら、書いた甲斐はあったかなと思います。

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額賀さん サイン
著者名(読みがな付き)
額賀 澪(ぬかが・みお)
著者プロフィール

1990年茨城県生まれ。日本大学芸術学部文芸科で小説創作、DTPを学ぶ。2015年『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞、ほぼ同時期に『屋上のウインドノーツ』で第22回松本清張賞を受賞。2015年刊行の『タスキメシ』は、青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(高等学校の部)に選ばれ、ベストセラーに。その他の作品に『さよならクリームソーダ』『君はレフティ』『潮風エスケープ』などがある。